|
製品概要
家庭用燃料電池の「基材レス ガス拡散層(GDL)」は、水素と酸素の化学反応で発電するスタックと呼ぶ部位の基幹部品の一つ。従来のGDLが航空機の尾翼などにも使われる高価な炭素繊維基材を使用していたのに対し、開発品は電子部品などに使われる低価格な導電性カーボン粒子を活用し、材料コストを大幅低減した。2013年4月に市場投入した業界初(当時)の価格200万円を切る第3世代の家庭用燃料電池「エネファーム」の低価格化に大きく寄与した。 家庭用燃料電池は電気とお湯をつくるコージェネレーションシステム。都市ガス(メタンガス)から化学反応で水素をつくる燃料処理器や発電部位スタックなどを内蔵した燃料電池ユニットと、化学反応で発生する熱を使ってお湯をつくる給湯ユニットで構成される。 スタックはセパレーター(絶縁材)と膜電極接合体(MEA)で構成するセルを積層した構造。このMEAは電極触媒、電解質膜、GDLの各機能膜を接合している。GDLは化学反応に必要な水素と酸素をセパレーターから電極全体に供給するガス拡散機能、電極で発生した電気を取り出す導電性機能、発生する水を排出する撥水機能の基本3機能が求められる。 従来のGDLは、アクリル系繊維を大型の電気炉を用いて1500-2000度Cで高温焼成して、炭素繊維にしてからシート化。後工程で、フッ素樹脂材料(PTFE)を含浸して撥水機能を付加するため、材料コストが高かった。 一方、開発した基材レスGDLは、従来品同等の基本3機能を備えた多孔質カーボンシート。低コストな導電性カーボン粒子とPTFEの配合比率を最適化して同時に添加し、混練、押出シート化、厚み調整、低温焼成などの一連の製膜プロセスを、各工程の評価技術も含めて独自開発した。第3世代のエネファーム向けスタックでは、業界初の基材レスGDL採用に加え、電極触媒の白金使用量抑制効果で、スタックコストを従来比25%削減することができた。 パナソニックは14年4月に、従来品より省スペース化したマンション向けエネファームを市場投入。同時期に欧州でも現地大手ボイラメーカーと組み、同地域初の家庭用燃料電池の販売を始めたが、これら製品でも省スペース化や、地域で微妙に成分が異なるガスに柔軟対応できる基材レスGDLが貢献している。 政府は14年4月の「エネルギー基本計画」で、省エネやCO2排出量削減につながる家庭用燃料電池の普及促進を掲げている。さらなる白金使用量低減やスタック構造の簡素化などの取り組みで、家庭用燃料電池の普及に向けたコストダウンを進めていく方針だ。 |
野村 剛 氏 |
パナソニック 常務取締役 モノづくり本部長 野村 剛 氏
このたびは、栄えある「モノづくり部品大賞」をいただきまして、誠に光栄に存じます。 「家庭用燃料電池の『基材レス ガス拡散層(GDL)』の開発と実用化」は、当社が2013年度より発売しております家庭用燃料電池「エネファーム」に採用され、機器の低価格化と効率向上に寄与しました。 当社の燃料電池開発の歴史は古く、1960年に遡り、本年度で55年目に当たります。その間、03年に事業化プロジェクト発足、05年より大規模実証によるフィールドテストを開始、09年より都市ガス会社様より一般販売しております。13年度に発売した第3世代モデルは、当該部品の採用などにより、業界で初めて200万円を下回ることができ、普及に貢献できたと考えております。 本技術の応用展開により、定置用システムのさらなるコストダウンを実現させるとともに、さらには来るべき水素社会に向けて貢献していきたいと、考えています。 |